健康食材「酢」のものがたり

健康食材として人気の「酢」。お酢には、便秘解消や冷え性対策、美肌効果、疲労回復など嬉しい効果がたくさんあります。酢にまつわるさまざまなエピソードを紹介します。

英語では「ビネガー」

江戸時代に日本の食物全般について記した書物『本朝食鑑』(ほんちょうしょっかん)では、酢の和名は「須」で「苦酒」ともいう、と記載されています。このほか、「酷」「加良佐介」とも書くとしています。

お酢は英語では「ビネガー」、フランス語で「ビネーグル」、イタリアでは「アチェート」、ドイツでは「エシイッヒ」、お隣り中国では「醋(ツゥー)」です。

南九州では「アマン」

では、お酢を「アマン」と呼ぶのはいったいどこの国でしょうか。答えはニッポン、正確には南九州の薩摩の国の方言です。さらに驚くのは、アマンの語源がオランダ語にあるということです。

17世紀のはじめ頃、オランダと九州の交易は盛んで、名産の有田焼きなどは5万個もオランダ人の手でヨーロッパに渡ったといわれます。来日して南九州の名産品の純米酢と出会ったオランダ人が盛んに「アルトマン」「アマン」という言葉を使ったので、お酢は「アマン」と呼ぶものと誤解されたようです。

上流階級の調味料?

「アルトマン」も「アマン」も領主、地主、荘園主などの上流支配階級を意味しています。純米酢のような良質の酢は、きっと当時のオランダでは高価で上流階級だけの調味料だったのでしょう。

日本とクエン酸

京都御所の紫宸殿(ししんでん)。その殿前には、右側に橘(タチバナ)が、左側に桜が植えられています。桜はともかく、今ではあまりなじみのない橘の木が、なぜ大切にされてきたのでしょうか。

私たち日本人の祖先は賢明でした。それは、お酢(クエン酸)が体によいことに早くから気づき、そのために橘や梅の木を中国から移植して増やし、その実を食べるようにし、そのことを子孫に伝えたのです。

梅や橘

梅は今でも、クエン酸の豊富な健康食品として人気があります。かつては、橘の実も同じように評価されていたことは、有名な公家や武士の紋所に多く採用されていることでもしのばれます。

また、ミカンなどを柑橘類と呼ぶように、今ではミカン、甘夏、八朔、伊予柑、キンカン、カボス、ユズなど種類も味覚も橘の仲間は豊富になっています。

医者が青くなる

昔から「ミカンが黄色くなると医者が青くなる」といわれています。ミカンなどの柑橘類が、色づいて食べ頃になるとビタミンC、クエン酸などが、簡単にしかも豊富に摂取できるので、病人が減って医者が困るということのようです。

旬の時期にしかない柑橘類に代わって年中利用できるお酢をもっと活用して、もっとお医者さんを青くさせたいものですね。

お酒と酢の関係

酒は、栓を抜いて暖かい所に置いておくと酸っぱくなります。これはアルコールが酢酸発酵してお酢になったためです。

もともと、醸造酢はこの方法で酒から造られてきました。

お酢は弟

ですから、平安時代にはお酢は「加良佐介」「苦酒」などとも呼ばれていました。お酢はお酒の弟分だったのです。

材料も同じで、兄弟関係のお酢とお酒ですが、その働きはたいへんに違っています。

確かにお酒も「百薬の長」ともいわれるように、適量で良質のものなら体によいこともあります。

しかし、飲酒が原因で肝臓などに障害をきたす人が多いのも事実です。悪酔い、二日酔い、酒乱などもほめられることではありません。

アルコールを無害化

これら兄貴(酒)の不始末を弟(酢)が見事に処理してくれるのです。アルコールが体内で正常に分解され、最終的には水と炭酸ガスとなり無害化されるのに、お酢の酢酸やクエン酸が有効に働くのです。

お酒を飲む時は、お酢を飲む。お酒を飲んだら、お酢を飲む。このようにして、酒から身を守るよう心がけてください。

お酢にまつわる風習

お祝いや節分には、お酢の料理、なかでも「お寿司」がつきものです。これも、お酢が体によく、しかも料理をおいしく保存できることからきた生活の知恵といえます。

関西でのり巻きを丸かじり

変わった風習として、大阪など関西地方では、今でも節分の日には「のり巻き」を丸かじりする風習があります。そうと知らないお嫁さんが、いつもどおりに「のり巻き」を切ってしまい、姑にひどく怒られたという笑えない話もあります。

郷に入らば郷に従え

"郷に入らば郷に従え"とはよくいったもので、変わった習慣や風習にも、それなりの大切な理由があるものです。そして、それらは長い間に広く支持されてきたもので、健康や家内安全など、なんらかの願いが込められています。

意味がわからないからといって、簡単にやめてしまう前に、できる限りその意味合いを考えてみたいものです。